「ラクス、スタンだ!!戦ってる!」
イリアの叫びにラクスは答えず、ただ頷いた。
そして一気に速度を上げる。
二人から見えるのは銃を構えるスタンの小さな後姿。
スタンの戦う敵からは死角となる位置だった。
「スタン!!」
イリアはベルトに差し込んだ銃を出しながら、スタンの後姿に向かって叫ぶ。
その声を待ちかねたかのようにスタンは勢いよく振り返った。
「イリア!!ラクス!!!」
「スタン、大丈夫??」
ラクスと共に駆け寄りながらイリアは心配そうにスタンに言う。ラクスも言葉こそ発しないが、心配そうな表情は変わらなかった。
スタンは二人の登場に一瞬気の抜けた表情を見せるが、すぐに自分を戒めるように厳しい顔に戻る。
「俺は大丈夫だよ!でも何人も死んじまった……さっきもジルが怪我して、今ユアが看てる。でも、来てくれて良かった!」
「もう大丈夫だ。よく耐えたな、スタン」
ラクスが少しだけだったが、厳しい微笑みをスタンに向けた。
それに励まされたようにスタンも笑みを浮かべる。
「当たり前だぜ!ラクスの居ない所で奴らに好き勝手させてたまるかっての」
スタンは力強く言い、ガッツポーズをしてみせた。
「そうだ、ラクス。奴ら、ラクスを出せって……」
「ああ、イリアに聞いたよ。大丈夫だ。すぐに終わらせるさ」
ラクスは自信に満ちた声で言うと建物の影から出ようとする。
腰に銃を差してはいるものの、それを手にする事は無い。
まるで丸腰だった。
「ラクス」
イリアは歩き始めた大きな背中に向かって言う。
「気をつけて」
ラクスは少し振り向き、微笑んだ。もちろんそれは緊張感に満ちた微笑だったが。
そしてまたラクスは前を向き、再び歩き始めた。
すぐに建物の影から体を出し、敵に姿を露にする。
しかし敵の銃弾が飛んでくる事は無かった。
「俺がラクス・アリガスだ。俺に何の用だ」
声高に敵の居る方に向かって怒鳴るように言う。
すぐにそれに応えるようにして一人、大柄な男が崩れた壁の向こうで立ち上がった。
「お前がこの地区(ブロック)のリーダーだな?お前の命を貰いに来た」
「それなら今この場で撃てば良かっただろう?何も名乗らなくてもな。何が狙いだ?」
「俺は卑怯な事が嫌いでな。正々堂々勝負したい」
敵のリーダーと思しきその男は持っている銃を下げ大声で言った。
「ふん、根から腐った奴では無いようだな。しかし、俺の地区の住民を傷つけた罪は重いぞ」
ラクスは静かに、しかし怒気のこもった声で言う。
そしてゆっくりと腰に差した銃を男に向かって持ち上げた。
対する男も高慢な笑みを浮かべると持っていた大き目の銃をまっすぐにラクスに向ける。

静かな時間が流れた。

風が流れ、砂埃を巻き起こしながらラクスと男の間を横切って行く。
その時、どこかで小さく何かが落ちる音がした。
そしてその音が合図になったように二人は同時に引き金を引く。
二つの銃声が混じり、辺りを制圧した。
ラクスは銃を持ち上げた姿勢のまま動かない。
しかし目はまっすぐに男を睨みつけていた。
その男の胸に紅い花が咲く。

ぐはっ

吹き出すと言っても過言では無いほど勢いよく、男は鮮血を吐き出した。
そのまま後ろに倒れこむ。
ドサッっと地面に倒れた男はそれきり全く動かなかった。
「ラクス!!」
建物の影から見守っていたイリアはこらえきれずに飛び出した。スタンもそれに続く。
「大丈夫?平気?」
心配を前面に押し出しながらイリアはラクスに駆け寄った。
ラクスはそんなイリアに優しい視線を向け、ラクスの視線に合わせるように腰をかがめる。
「ああ、大丈夫だ。かすり傷一つ無い」
ラクスは優しく笑った。
「それより、怪我人の手当てをしてやらないとな」
「うん!!」
イリアはラクスの優しさを噛み締めながら、力いっぱい頷く。
ラクスはイリアとスタン、二人に挟まれて仲間達が居る建物へと向かった。



地下の楽園TOP 第一章3