スタンに案内され入った、建物の内部は濃い血の匂いが立ち込めていた。 イリア達の仲間の血だ。 建物の中には負傷した人々が所狭しと横たわり、座っている。 その間を怪我の無い仲間達が忙しそうに走り回っていた。 「ラクス!!」 そのうちの一人が入り口に立つラクス達に気づき、声を上げる。それに呼応するようにあちこちからラクスを呼ぶ声が上がった。 そのうちにラクスの周りには小さな人だかりが出来る。 「ラクス!遅かったじゃない!!」 ユアが大きな瞳を潤ませ、ラクスにしがみついた。 他の仲間達もそこまでしないまでも、皆同じようなものだった。 「何人も死んじゃったよ!!ここにいる奴らも、みんな酷い怪我だよ!どうして……もっと…ック……ヒック……」 言いながらラクスの服に顔をうずめ、嗚咽を漏らす。 それにつられたように数人の少女達も泣き出した。 ラクスは悲しそうな目でその様子を見ている。 「……みんな、すまなかった。俺のせいだ」 しがみついて来るユアの背中を撫でながら辛そうに言った。 (一番辛いのは、責任を感じてるのはラクスだ……) イリアはラクスの後姿を見ながら思った。 きっと一番悲しんでいるのだ、仲間の死を。 「とにかく、負傷者の手当てをしよう」 ラクスはそこに居る全員に言った。 異存があるはずも無く、全員がそれぞれ動き始める。 ラクスは背を向けたままスタンに言った。 「スタン、すまなかった。辛い思いをさせたな……」 「ラクスのせいじゃ無い!ラクスは奴らを倒したんだ!!」 「……そうか。じゃあ俺達も手当てをしよう」 「うん」 イリアとスタンは同時に頷いて、動き始めた。 ラクスはまず、ユアが看ているジルの元へと向かう。 「ユア、ジルは大丈夫か?」 「一応、血は止まったよ。急所も外れてる、なんとか大丈夫そうだよ」 「そうか。ジル?」 ラクスは静かに横たわっている血まみれの少年に呼びかけた。 ジルは薄く目を開いて、目の前に居るラクスを見る。 「ラク、ス?」 「あぁ、俺だ。もう大丈夫だからな」 「う、ん……」 ジルは安心したように再び目を閉じた。 ラクスはそれを優しく見守りながらジルの頬に触れる。 触れた頬はほんのりと温かかった。 「ユア、ジルは頼むぞ?俺は他の奴らを見てくる」 「うん。任せて」 確認するように頷き、ラクスは立ち上がる。 そして他の負傷者の元へと向かった。 もう時計の針は午後9時を回っていた。 その時間になってようやく一通りの手当てが終わった。 「一段落着いたな。よし、歩ける奴は自分達で住居に戻れ!歩けない奴は怪我をしてない奴が肩を貸してやれ。住居に戻るんだ」 そのラクスの号令に全員が一斉に動き出す。 しかしイリアとスタンは従わず、ラクスを見上げた。 「ラクス……」 「わかっている。死んだ奴らの所に行くぞ」 「うん!」 イリアとスタンは頷き歩き始めたラクスについて建物を出た。 外は相変わらず、人工的な光に満たされていた。 「みんな済まなかった……俺が不甲斐なかったせいで……」 一箇所に集めた仲間達の体に向かってラクスは小さく呟いた。 その体はどれももう冷たくなり、硬直し始めているものばかりだった。 ラクスは悲しさを隠そうとせず、もう既に死んでいる仲間達へ弔いの言葉をかける。 死体の殆どが銃弾で傷つけられたものだった。 中にはイリアの友人も数人居る。 イリアは隠すでもなく、素直に涙を流した。 友人達の名前を一人一人呟きながらイリアは泣いた。 「もう、終わったから……みんなが戦ってくれたから、地区(ブロック)は助かったんだよ」 スタンも同じように死体に呼びかけながら黙祷を捧げるように目を閉じている。 数秒間、そのまま静かに目を閉じていた。 目を開いた時、スタンは涙を堪えるように口を引き結ぶ。 目尻に涙が溜まり、今にも泣き出しそうな表情をしていた。 「ごめんな、みんな……」 「……戻ろう。みんなの体は明日、埋めに行こう」 ラクスは嗚咽に揺れる小さな二つの背中に言う。 イリアは袖口で涙を拭って振り向いた。 「うん」 ラクスを見上げて小さく笑う。 スタンもそうだった。 「みんなは勇敢に戦ったんだよね!」 「あぁ、そうだ。みんな、この地区のために命をかけて戦ったんだ」 ラクスも笑い返す。 「さぁ、帰ろう」 イリアとスタンの肩を抱いて、ラクスは言った。 二人は少し悲しそうにうなずいて立ち上がった。 歩き始めた三人の姿はすぐに砂埃の中に紛れこんで行った。 第一章.地下の少年達 ─完─ 第二章へ続く… |