「……わかった。一応信じよう」
「一応、ですか」
信用されてないなーと、ゼロは笑う。それこそ当たり前なのだが、それを気にしない風にゼロは振舞っていた。
ラクスは更に続ける。
「最小限の協力はしよう。だが、必要以上に『竜虎』に関わるな」
「ありがとうございます」
ラクスの冷たい返答にもめげず、ゼロはひっそりと笑った。その返答を聞いていたイリアも嬉しそうに笑う。
「ラクス、ありがとう!」
「お前に感謝される筋合いは無い」
「でも……」
「まぁまぁ、ラクスさん。身内にまでそんな冷たくする事は無いでしょう?」
「うるさい」
取り付く島も無いラクスにゼロは困ったよう首を振った。ラクスはそんなゼロに厳しい視線を浴びせ、ドアに視線を向ける。
出て行けという事だろうと容易に想像できた。
(全く、頑固な人だ)
しかしそれは口に出さず、ゼロはドアに向かう。背後でイリアが少し迷う気配がし、その後に自分を追うように小さく足音が
付いて来た。
ラクスの部屋から出ると、いかに部屋の中の雰囲気が張り詰めていたかがよく分かる。一気に空気が和らいだ。
「ゼロさん」
「何ですか?」
「ごめんね?気悪くしないでね?」
「いえ、大丈夫ですよ。それにイリア君が謝る事でも無いでしょう?」
「うん……」
自分がやった事のように落ち込むイリアの周囲には暗い雰囲気が重く漂っている。
(どうも、この少年は弱すぎますね……行動の妨げにならなければ良いですが……)
そう思いながら二人は汚れた階段を降りて行った。階下には先程と変わる事なく、『竜虎』のメンバーが二人を待ち受けている。
降りてくる二人を見つけ、一番にスタンが駆け寄ってきた。
「イリア!」
「あ……スタン」
「ラクス何だって!?」
初っ端から核心に触れる質問を飛ばしながらスタンは意気込む。イリアは気圧されるように少し後ろに身を引いた。
「ん、協力するって」
「ホントに?ラクスが言ったんだな?」
「う、うん」
「まぁまぁ。スタン君、でしたっけ?落ち着いてください。ラクスさんにはちゃんと了解をもらいましたよ」
未だに警戒の満ちた視線を向けるスタンにゼロは落ち着かせるように言う。スタンはそれでやっと信じたように頷いた。しかしまだ
警戒は解いていないようだった。
その様子を見ながら、ゼロは頭の中でスタンの人柄の分析を始める。
(このスタン君とやらは、結構力を持っているみたいですね。明らかに年長の者達が彼の言葉をじっと聞いている……ラクスさんとは
相当近い立場のようですね)
しっかりと頭の中のメモに記録して密かに満足していると、水を差すようにスタンが言った。
「それはわかった。じゃあ、約束通り説明してもらうぜ?」
「わかりました」
促されるままにゼロは今さっきラクスに対してした説明と殆ど変わらない物をゆっくりと話し始める。
スタンを筆頭とする『竜虎』のメンバー達は一言も聞き逃すまいと、耳を大きくしてその話しに聞き入っていた。
そして一通り説明が終わってもスタンらは考え込んでいるのか、誰も一言も言葉を発する事は無い。
その様子をゼロは静かに見守り、彼らを邪魔すまいと小声でイリアに言った。
「じゃあ私は宿屋でも探してきます」
「え?うちに泊まればいいのに」
「流石にそこまで迷惑はかけられないでしょう?それでなくても、イリア君にはかなり協力してもらってるんですから」
「そんなの、全然大丈夫だよ!それにうち、俺とリアしか居ないから人増えると楽しいし」
「そうですか?じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
うちに泊まる事を承諾するゼロに、イリアはニッコリと笑い大きく頷く。
そして話しているうちに考えがまとまったのか、ラクスが二人の間に割って入った。
「ラクスが協力するって言ったんなら、俺も手伝うよ。それにイリアだけでさせるのも危ないからな」
「危ないって何だよ〜。スタンだって俺と同い年でしょ?」
「そういう問題じゃないっての。お前、危なっかしいんだよ。他人を警戒するって事を知らねぇんだからなぁ」
「お、俺だって、良い人と悪い人の区別くらいつくよ!」
悔しそうにイリアは頬を膨らませてスタンに抗議する。ゼロはその言葉に内心、残酷な笑みを浮かべた。
(残念ながら、ハズレですねぇ)
笑いを漏らすまいと、ゼロは意識して口元を引き締める。
スタンも怪しそうな顔でイリアを見た。
「どうだか。俺だって、ラクスの事が無かったらこんな奴に協力なんかしねぇぞ?」
「だってぇ〜」
勝ち目が無いと悟ったのか、イリアは完璧にむくれてしまった。
「ま、いーや。ラクスが言ったんだから、俺も協力するぜ。ただし、イリアになんかしたら容赦しねーぞ?」
「わかってますよ」
ゼロはニッコリと笑う。
ラクスはまだ完全に信用して無いまでも、ゼロに協力する事を承諾した。
それが彼の計画のうちだとは知らず。



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