イリアはリアを起こし、身支度を整えキッチンへと向かった。
いくらゼロにゆっくりしろと言われたからと言って客人に家事をやらせるのは駄目だと、イリアは急いでキッチンに入る。
見ると、食卓の上には既に朝食が用意されていた。
そしてナイフやフォークを出すゼロが視界に入る。
ゼロはエプロンがよく似合っていて、どこかで主婦でもやっていそうな雰囲気が漂っていた。
(なんかお母さんみたいだなぁ)
心の中で笑いながらイリアは彼のエプロン姿をまじまじと眺める。
「おや、イリア君。リアちゃんもおはようございます。朝食できてますよ」
にっこりと笑ってゼロは二人に手招きをした。
招かれるままに二人は食卓に着く。
「ごめんね?ゼロさん。お客さんなのに準備させちゃって……」
「かまいませんよ。それに結構楽しかったです。たまには料理もしてみるものですね」
ニコニコとゼロは二人の前にフォークとナイフを置いた。
その仕草の一つ一つにどこか上品さを感じ、イリアは彼がやはり違う世界の人間である事を実感する。
(ゼロさん、仕事のためにスラムまで降りて来たんだよね……大変だなぁ)
ボォッと自分を見つめているイリアに、ゼロはきょとんとした。
「どうしました?イリア君」
思考に水を差されたイリアはそれで我に返って慌てて答える。
「あ、なんでもないよ。なんかボーっとしちゃって」
「そうですか?じゃあそろそろ頂きましょうか」
イリアはそうだねと答え、朝食の料理を始めてしっかりと目にした。
それはかなり手が込んでいて、朝食とは思えないくらい豪華だった。
冷蔵庫にある食材でどうやったらこんな料理ができるのかイリアは不思議でしょうがない。
イリアにとって朝食とは適当にパンと軽いおかずくらいの物だ。
「うちにある材料でどうやってこんなん作れるんだろ……」
「フフフ、それは秘密ですよ。じゃあいただきます」
「あ、いただきまーす」
リアも小さくいただきますと呟き、料理に手を伸ばす。
イリアもフォークで料理を口に運び、その味を確認した。
「美味しい〜!」
「フフ、そうですか?嬉しいですねぇ」
「ホント、美味しいよ!普段ホントに料理してないの?」
「普段も何も、今日が始めてです」
「ホントに!!?凄い〜」
「そうですか?」
「そうだよ〜初めてでこんな手の込んだの作れるなんて……」
「そういうもんなんですかねぇ?まぁ良いじゃないですか。さっさと食べちゃいましょう」
話を打ち切ってゼロはフォークをまた料理と口の間を往復させる。
イリアはそれ以上何も言えず、黙ってゼロに倣った。
カチャカチャと食器が触れる音が食卓に流れる。
ゆっくりのんびりと食卓の時間は流れていった。


「ゼロさんは今日何するの?」
一通り食事を終えたその後。
ゆっくりと休息をとるその時間だった。
「今日ですか?そうですね……適当にスラムを歩いて、情報を集めようと思ってます」
「そっかぁ、じゃあ昼頃から俺ラクスんトコ行くから、良かったら来てよ」
「そうですね。じゃあそうします。食事は適当にその辺でしますから、お構いなく」
「分かったよ。この地区は大丈夫だと思うけど、スラム危ないから一応気をつけてね?」
「心がけます。じゃあ片付けも終わりましたし、私はそろそろ出かけます。少しでも早く見つけたいですから」
ゼロは立ち上がり、椅子に掛けてあったスーツの上着を羽織る。
きっちりと身なりを整え、ゼロは行って来ますと笑った。
「行ってらっしゃい。じゃあ会えたら昼に会おうね」
「はい。では後ほど」
そう言ってゼロは振り返りもせず部屋を出て行く。
少しして玄関のドアが閉まる少し思い音がした。
「リアも、後でラクスの所行くだろ?」
「うん」
「そっか。じゃあ午前中に家の掃除しちゃうから、リアなんかして遊んでてな」
「はーい」
リアはちょっと長めの返事をして、キッチンからパタパタと出て行く。
「さぁて、俺もさっさと掃除しちゃおっと」
イリアも立ち上がるとさっさとキッチンから出て行った。


見上げると空の装飾が施された天井が一面に広がっていた。
それは本来彼の部屋だ。
「やっぱりお客さまの寝る部屋だし、綺麗にしとかないとね」
イリアは電動の掃除機を片手に、部屋の窓を開け放つ。
こうでもしないと、掃除機から吐き出される汚れた空気が部屋中に充満してしまうからだった。
イリアは部屋の端から掃除機をかけだす。
けたたましい機械音がなり始めた。
「あれ?なんだろ、この紙……」
イリアはベットの下から拾い上げた一枚の紙を顔の前に掲げる。
字がぎっしりと印刷された、見慣れない紙だった。








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