「俺こんな紙持ってないよねぇ。印字だし……ゼロさんのかな?」
掃除機を一旦止め、イリアはその紙をしっかりと持ち直した。
「あ、番号振ってある……でも他の紙見当たらないし……」
イリアはベットに座り、ぎっしり詰め込まれた文章をゆっくりと目で追いはじめる。
少しの間、部屋の中は何の音もしなくなった。
「あぁ。これ、『太陽』の資料だ。『力』を持つ者の事も書いてる」
ゆっくりゆっくりと文章を目で追う。
それまでの『力』を持つ少年少女達の情報が書いてあった。
更に読み進める。
そして、文章は『力』を持つ者の特徴が記されている所までたどり着いた。
「紋章……?」
『太陽』『神』『剣』
何か、昔の神話にでも出てきそうな単語が並ぶ。
そしてそれこそが紋章だという。
「なんかこれって……似てる?」


「さぁて、これからどうしましょうかねぇ」
人の活気が現れ始めたスラムをゼロは一人で歩いていた。
スラムに全くそぐわない雰囲気を纏うゼロを、人々は物珍しそうな目で盗み見る。
『竜虎』のメンバー以外で、ゼロの事を知る者はまだ少ないだろう。
「この地区(ブロック)だけでさえ、人口は一万人……いくら手がかりがあるとは言え……」
さすがに彼一人では辛い物がある。
太陽の光さえも届かないこのスラムは、人口の光があるとは言え、何か薄暗い感を受けた。
「暗い、ですねぇ」
「あれ?お前」
突然、背後から若い声がかかる。
振り向くと紫の瞳と目を合った。
「君は確か、スタン君……でしたっけ?」
「よく覚えてたな。ゼロ・ラジアス」
「おや、あなたもよくフルネームで」
「一回聞いた名前は忘れねぇよ」
「そうですか」
自分より五センチ程小さいスタンを見下ろしながら、ゼロはニコリと微笑む。
何かオーラの漂う笑顔に負けじと、スタンはジロリと睨み返した。
「まだ警戒されてますねぇ」
困ったように笑い、ゼロは自分の髪に手を伸ばす。
「あったりめぇだろぉがよ」
「まぁ、イリア君みたいなのも珍しいですがね」
「あれは特殊だっつの」
「そうですねぇ」
呆れたようにゼロは笑った。
「これからどっか行くのか?」
「いえ、特に予定は無いんですが。とにかく今は情報を集める事が最優先ですからね」
「あぁ『力』を持つ者だっけか?それってこの地区(ブロック)にいんの?」
「まぁ、その確立が高いですね」
「へぇ。ま、いっか。ラクスが協力するっつったんだし、俺もそれなりに協力すんぜ」
「ありがとうございます。そうそう、体に不思議な形をした刺青や痣を持って入る人を知りませんか?」
「不思議な形?」
「ええ」
ゼロは懐から手帳を取り出し、羽根を生やした太陽を二分するようにかざされた剣の絵を簡単に描いた。
「あ、これどっかで見た事あるぜ?」
「え!本当ですか?」
「あぁ。でもどこだっけ……随分前だった気がする」
「思い出せますか?」
スタンは頭を抱えて、少し唸る。
「うーちょっと待て。思い出したら言う」
「おねがいします」
「あぁ。おい、ちょっとなんかおごれよ」
「あはは。そうきましたか。わかりましたよ」
ゼロは呆れたように笑い、また足を進めた。








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