「ラクス、いる?」
イリアは予定より随分早く、ラクスの家を訪ねていた。
ドア越しに尋ねたイリアの声に中から応答がる。
「イリアか?入っていいぞ」
「はぁい」
イリアはドアを少しだけ開けて部屋に入った。
ラクスはベットに腰掛けて分厚い本に目を落としていたが、イリアが入ってくるとすぐに顔を上げる。
「どうした?今日は早いじゃないか」
「いや……ちょっと」
「………話してみろ」
ラクスは本を閉じて、イリアを招いた。イリアはラクスに示されて、彼の隣にちょこんと座る。
「これ」
イリアはそう言って、部屋で見つけたゼロの物らしい紙切れをラクスに手渡した。
ラクスはそれを黙って受け取り、書いてある文章にじっと目を落とす。
少し経って、やっとラクスは顔を上げた。
「これがどうした?」
「これに書いてある紋章の事なんだけど……」
「?」
意味の分からないというラクスの表情をよそに、イリアは黙って服を脱ぎ始める。
「おい?」
「これなんだ」
イリアは上半身裸になり、ラクスに背中を向けた。
その背中を見てラクスの目が見開かれる。
「これは……」
「似てるでしょ?」
イリアの背中にはいっぱいに紙に書いてあった紋章の特徴そのままの痣があった。それは痣と言う事を憚られるように、
その白い肌にくっきりと浮かんでいる。
それはまさに紋章だった。
「どうしよう、僕……」
「……服を着ろ」
低い声音でラクスは言う。その漂う思い雰囲気に、イリアは素直に従った。
「僕が……『力』を持つ者なの?」
「違う!」
「だって……」
「言うな!!!」
ラクスは怒鳴った。無意識のうちに怒鳴っていた。
イリアはそれ以上何も言えず、ラクスの目をまっすぐ見ながら黙った。
ラクスは怒鳴った事で自己嫌悪に陥ったように、床を睨んでいる。
「すまない」
「……うん」
少しの間、気まずい雰囲気が流れた。
そして、小さくラクスが呟くように言う。
「イリア」
「何?」
「この事は、言うな。特にあいつには」
「あいつって、ゼロさん?」
「あぁ」
「なんで!?だって、ゼロさんは、星のために『力』を持つ者を探してるんだよ!?」
「うるさい。とにかく、言うな」
「だって!」
イリアが少し強く言うと、ラクスは黙り込んだ。しかし目は思いっきりイリアを睨んでいる。
イリアはその視線にたじろき、下を向いた。
「絶対に、言うな。絶対にだ」
「………わかった」
「それと、他の奴にも言うな。誰にも。あいつに漏れる可能性があるからな」
「……うん」
「それでいい。怒鳴って悪かったな」
「いいよ。それじゃあ、僕下いくね」
「あぁ」
イリアはそれ以上何も言わず、静かに部屋を出て行った。


スタンとゼロは近場の食堂で顔を向かい合わせて、安い定食を頬張っていた。
ゼロは上品に、上手くフォークを操って魚の煮物を口にしている。
そんなゼロをみながら、スタンは呆れたように言った。
「お前さぁ。こんな所の定食なんか、んな上品に食うもんじゃねぇだろ」
「私にはこれが普通ですからね」
ニッコリと、ゼロは笑った。
その笑顔にスタンははぁぁと、大きな溜息をついた。
「あっそ。お前、上品すぎ。やっぱぼんぼんだな」
「あ、そんな言い方しないでくださいよ〜傷付くなぁ、もう」
「嘘吐け、ばかやろー」
「あ、ばれました?」
軽やかにゼロは笑った。それと逆にスタンの溜息は更に大きくなる。
「そういえば、さっきの紋章の事思い出しました?」
「いや、まだ。でもどっかで絶対見てるんだよなぁ。『竜虎』入ってからだと思う」
「という事は、『力』を持つ者は『竜虎』の中に居るんですね!?」
「そう言う事になるなぁ」
「それは、すごい情報ですよ!!」
「……あぁ」
ゼロは思わず、口元に笑みをこぼした。しかしそれはスタンらに見せる優しい笑顔ではなく、何か企むような笑顔だった。
それは一瞬だったが、スタンの目にはっきりと映った。
(!?こいつ、こんな笑い方する奴だったか?なんか、あぶねぇ)
スタンは胸中でそんな事を思う。
「そういえば、『竜虎』にはいる前ってスタン君はどこに?」
しかし直後のゼロの言葉にその感想はどこかへ飛んでいった。
「あぁ、この地区(ブロック)とは違う所に居たんだよ」
「へぇ、そうなんですか。その時はどこかのチームに?」
「いや……チームには入ってなかったよ。いや……どうなんだろうな」
ゼロの問いにスタンは口を濁す。しかし実際には特別興味もなかったためか、ゼロはそれ以上問い詰めはしなかった。
「言いたくなかったら言わなくて結構ですよ」
「あぁ」







地下の楽園TOP 第三章7