序章.太陽


ああ、再び『太陽』が動き出した……

暗く小さな部屋に電子的な明かりが灯った。その光が部屋の内部がかろうじて見える程度に照らしだす。
小さな部屋は、何に使うのかこちゃこちゃとした機械が所狭しと並んでいた。
その中で最も大きなモニターがその光を発している。
そしてその電子的な薄明かりの中、一人の男が食い入るようにそのモニターを見つめていた。
光が弱く、男の金髪に反射する。男はモニターを見つめながら、何かを小さく呟く。

「やっと、動き出した……待ちかねたぞ。ついに、『力』を持つ者が現れたか」

その呟きは部屋の薄闇に静かに吸い込まれ、それを聞く者は男だけだった。
ジジジ、とモニターが微かな音を発する。その音すらが男の気持ちを昂ぶらせるかのようだった。
照らし出された男の口元が三日月のように歪む。口の端から小さく笑い声が漏れる。
男の背中が揺れる。それに合わせて、整えられた髪が小さく揺れた。
闇の中、一人笑うその姿は一種、狂人のようでもある。
なおも男は笑いを漏らす。
嬉しくて仕方ないように。
いや、実際そうなのだろう。
男は狂ったように笑い続けた。
その口が笑みの形を作ったまま、また小さく呟いた。
「こうなれば、行かなければなるまいな……『力』を持つ者の元へ。ククク……」
小さく呟かれた言葉は奇妙な響を持って空気を駆け抜ける。
男は愛おしそうに光り続けるモニターに触れた。
モニターの中心に映し出される『それ』はこの世の何より、尊く在り続ける。
ふいに男の脳裏に何かの叫びが入り込んで来た。
何か切羽詰ったような、しかし理解する事は叶わない。
男はそれを理解すべく周辺の機械を操作し始めた。


同調(シンクロ)………


そして今度は明確な意味を持って叫びは男に伝わる。
「ククク……ついに時が来た……『支配者』は完成した。『力』を持つ者と同調すれば全てが終わる……」
男は笑った。
時は動き始める。
『支配者』と『力』を持つ者によって。
男は再び、笑った。
闇はその全てを無言で見守り、優しく包み込む……




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